補陀落山 大善院 - 弘報 - 愛染明王

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弘報

仏ほっとけない話 「愛染明王」

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彩色中の愛染明王

愛染明王は密教諸尊仏の中で仏格、容姿、功徳はたらきどれをとっても好きな仏さんである。
金剛界大日如来の尊格の代わりに秘仏にして、稲沢の性海寺では多宝塔に祭る。
躍動感あふれ、六臂のうち二臂で弓と矢を左右に握り人心を射抜くことから、愛のキューピットに喩えられるが、それにおさまらない身色と怒り顔である。
京都山科にある須藤仏像彫刻所に、当山に伝えられた古い愛染明王の修理をお願いした。
須藤光昭(こうしょう 58歳)さんの仕事場には四人のお弟子さんと、ご子息二人に加えて、分解した部品を細心の注意で刮げ落とす奥様、八人のスタッフで作業を進めた。
仏像は木彫り作業が注目されがちで、趣味で彫っている人も多いが、彩色作業は彫り師も補助的作業と軽んじる傾向で、ほかの仏所でも彩色はするが、専門的な絵の具の知識を備えている仏師は少ない。
須藤さんは、伝統技術が安易な方向へ流されることを心配して、二人の息子さんのうち、兄の隆(たかし 29歳)さんは仏像を彫り、弟の淳(あつし 26歳)さんには彩色を専門に勉強させたいと、密教仏画に精通している真福寺仏画導場の中村幸真さんに指導を仰ぎ、明王の修理を進めている。
仏画は和紙や絹本に描かれることが多く、顔料がのりやすくするため下地に植物の煮汁や胡粉を引いたりして、それぞれの作者で工夫している。
この胡粉、古くは蛤、最近では牡蠣、帆立の貝殻を粉末にして使われるが、帆立は柔らかくてふわふわした感じ、蛤は堅くてつやつやして白い感じが上品だという。
明王の木地にも胡粉を塗るが、木造の凹凸にはきめが細かすぎるので、胡粉より粒が荒い和黄土を三度以上塗り、顔料をなじみやすくする。その上に本朱色を薄めの膠で溶き、二十回以上塗り重ねることで輝かしい赤色の身体色を出す。
この色は、東の空に上る日の出の一番明るい時の太陽色。また、水銀の毒性で、邪悪なものを寄せ付けない清浄色として古代より特別に扱われている赤でもある。
愛染明王にとって、体の奥からにじみ出てくる肉体色、深みがありながら、鮮やかで眩しい、この本朱色が命である。
完成して往時の姿に戻るのが待ち遠しい。